2008年06月14日

暴力のサイクル(1)

 ベイラー医科大学・テキサス小児病院の〔子供のトラウマ回復プログラムのディレクターであるブルース・D・ペリーは、『暴力の起源』についての論文を提示しているが「暴力のサイクル」についても触れている。(暴力のサイクル ―― Bruce Perry, "The Vortrex of Violence : How Children Adapt and Survive in a Violent World," ChiildTrauma Academy, Parent and Caregiver Education Series, ed. B. D. Perry, CIVITAS Child Trauma Programs, Dept. of Psychiatry and Behavioral Scienes, Baylor College of Medicine, Texas Children's Hospital. [ Maltreated Children : Experience, Brain Development and the Next Generation - New York : W. W. Norton, 2000)の一部を改定したもの ] )

 医学博士であるトーマス・バーニー博士の著書『胎児は知っている母親のこころ―子どもにトラウマを与えない妊娠期・出産・子育ての科学 (単行本) 』で、「暴力のサイクル」において、米国の子供たちについて、取り上げられていたので、ざっと調べてみた。

 米国で犯罪が多発する州というのは、海外テレビドラマや映画などで大方その周辺の治安を知ることが出来る。米国の報道番組でも知ることが出来る。また、〔米国で犯罪が最も多発する州が4州ある〕ということは「米国の犯罪が多発する4州で、服役者のGPSの監視システムの導入する」という報道で知っていたが、簡単に調べてみるだけでも、米国の犯罪多発地域を調べてみれば、『【安全対策基礎データ】- 外務省』を見るだけでも、国内全体に多様化していることがわかる。

 いわば、米国のどの州においても、犯罪率が高く、発生する犯罪の多くは、一定の犯罪多発地域に集中している。米国といえば『同時多発テロ』が起こったあの惨劇はまだ記憶に新しいかと思う。現在の米国といえば、テロを防止するためにシステムが導入されているのは知っているが、検索して見つけた企業のプレリリース『HITACHI:セキュアプラザ 米国ホームランドセキュリティ最新動向概要』を見ると、どれだけ暴力が多発しやすい環境であるのかがわかる。

 バーニー博士は次のように展開する。「現代の子供たちは、暴力の文化を当たり前のように感じているかもしれない。どれだけ多くのアメリカの子供が、世界貿易センターの2つのタワーが崩壊するシーンを、少なくともテレビで目撃しただろうか。どれだけ多くの子供が、いつか空から攻撃されるかもしれない、郵便物に病原菌が入っているかもしれない、さらには、隣に住む誰かから襲われるかもしれない、と思っているだろうか。私たちの臣下の背景となった暴力的環境は、今も私たちと共にある。」という。

 日本では、近年より、特に今世紀に入ってから、暴力を身近で体験するようになったが、米国では〔自由の国〕と讃えつつも、様々な人種が入り混じって生活する環境で貧富の格差が激しいだけに、暴力を身近で体験することは珍しくない。

 シカゴなどの犯罪多発地域に住む子供の30%が、15歳までに殺人事件を目撃し、70%が以上が暴行事件を目撃するという。(James Garbarino, "The American War Zone : What Children Can Tell Us About Living With Violence," Developmental and Behavioral Pediatrics, 16.3:431-435 1995 )

 これを「まるで戦時中のような酷さだ」と博士はいうが、まさしく、それだ。といった感じである。戦時中とは、極端な自己防衛本能やアドレナリンの過剰発生で、殺人や暴行事件を平気でやってしまう。傍目から見れば、狂ったような行動を取ることがある。その、戦時中と同じだと考えると、論理上の矛盾を感じてしまうが、それが育児放棄や虐待された返しだと考えれば、自然に理解できるだろう。

 国立精神保健研究所の調べによれば、ワシントンDCの〔ほどほどにっ暴力的な〕地域では5年生と6年生の43%が路上強盗を目撃している。アメリカの歓楽街では、大人だけでなく子供も、日常的に銃を所持することが当然のように受け入れられている。こうした社会で生きる子供たちはたいてい貧しく、育児放棄や虐待を受けている率も極めて高い。また、家庭で父親が不在であったり、うつや薬物乱用のためにろくに子育ての出来ない親と暮らしていたり、無教養な親に育てられていることも多く、働くあてのない親に育てられていることも多い。( L. Richters and W. Salzman, "Survey of Children's exposure to community violence" - Bethesda, Maryland : National Institute of Mental Health, 1990. )

 テレビの世界や地域社会そのものに、これほど暴力があふれているのにかかわらず、アメリカで最も暴力が多発している場所は、やはり、なんとも家の中である。そして、ティーンエイジャーや大人が犯す略奪的な犯罪は、しばしば幼い頃の家庭での体験に端を発している。

 即ち、「ティーンエイジャーや大人が犯す略奪的な犯罪は、しばしば幼い頃の家庭での体験に端を発している。」とは、幼い頃に家庭で体験した「C-PTSDやトラウマのフラッシュバック」で発生していることを示唆するものである。

 子供時代の最悪な体験とは、〔恐怖の中で純粋培養〕されること、つまり、DV環境で被虐待児になると脳の破壊や神経系の損傷され、C-PTSDやPTSDなどの後遺症が残る他、成長段階の次第では数々の発達障害を引き起こすことから、〔永久に脳を変えられてしまうことにある〕からだ。

 こうなってしまった場合、脳や自律神経系、条件反射など、いたるところまで、生体構造自体が、生活環境で築かれたもので、土台から環境に合わせて変えられているので、たとえ心理面上においては、「それを行うことは犯罪であって許されない」とはわかっていても、歯止めが利くわけでもない。

 たとえ、分子生物学からのホルモン物質の調整を行ってもさほど効くわけでもなく、認知行動療法を用いて、知識や技術を身につけてノウハウを獲得しても、社会環境に戻されれば、同じように事件を引き起こしてしまうこともあるだろう。

 こうして、ダメージを受けた子供は、世代から世代へと、受け継がれる暴力のサイクルに入っていく。そのサイクルは、〔かつての被害者が加害者になる〕というメカニズムから、〔不幸な子供に育てた親を育てた親から〕育てられると〔犯罪を起こしやすい因子を持つ子供に育つ〕となるので、〔三世代1パック〕でそのサイクルが周ると考えてよいだろう。

 暴力についての起源の考察は、『暴力の起源』で行ってきたが、つまりは、ヒトは未発達で生まれてくるだけに、社会に適応して生きていくように人間として育てるのは、それだけ非常に難しいということであって、少なくとも、放っていても育つような種の生物ではないということだ。


 バーニー博士の本書にあたっては「暴力のサイクル」について6ページほど説明が記述されているが、自身の視点による「暴力のサイクル」についての考察は、実は、まだホンの序の口にあたる。ちょうど切が良いので、本日の考察はこれまでとする。

 次に、「暴力を起こすのは何のせいか」について考えていく。

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2008年06月13日

暴力の起源

 1997年に『暴力の起源』についての論文が発表された。(B. D. Perry , "Incubated in Terror : Neurodevel-opmental Factrors in the 'Cycle of Violence.' " [ Children, Youth and Violence : The Search for Solutions, ed. J. Osofsky - New York : Guiford Press, 1977, p,124-148 ])

 「人間という種の成功の鍵は脳の柔軟性にあった」とする説は、現在の生物学系では知られる有力説である。このため、ディスカバリーチャンネルなどの科学系番組や教養番組などでは、今世紀に入ってからよく引用されているので、ご存知の方も多いかと思う。

 DNAイブを辿ればアフリカの一人の女性から発生したと考えられているヒトは、ヒト科(Hominidae)のうち、ヒト上科(Hominoidea)に位置づけられている。(参考:『ヒト科 - Wikipedia』)

 「人間という種の成功の鍵は脳の柔軟性にあった」ということはどういうことなのか? ヒトは二足歩行になったからか未熟児の状態で未発達で生まれてくる。シマウマなどの他の動物に比べれば3年の歳月を経過しなければ同等のシステムを獲得することが出来ない。このため、ヒトは環境によって脳はそれにあわせて作られる。

 厳密に言えば、脳を持つ生物は皆そうなのだが、どの哺乳類よりもヒトは未発達状態で生まれ、ヒト科(Hominidae)に分類されるヒトに近い亜種のチンパンジー亜科同類のサルよりもヒトは未発達状態で生まれる。このため二足歩行が原因ではないかとする説が有力説となっている。

 即ち、脳を持つ生物は環境によって脳が作られるからこそ、人間は、アフリカの広大なサバンナや氷河時代の襲来といった様々な条件に耐え抜くことが出来、文明が発達する中で、農耕の厳しさも道具を作る緻密な作業もものとせず活用し、情報伝達に必要な様々な言語の発展や、文字を発展させることが出来た。しかし、歴史の始めの頃には、ヒトも野生動物たちと同じ環境下で、危険を切り抜けるための能力があったはずで、この能力があったからこそ、生物進化の流れの中で生存競争に勝ち得てきたことである。

 言葉を言い換えれば、この「危険を切り抜けるための能力」とは、つまりは、「自己防衛本能から生じる攻撃性」なのであるが、現在、人間が暴力を振るうのは、進化の過程で必要とされたこの能力の表れであって、生体のメカニズム上では「自己防衛本能から生じる攻撃性」にあたる。


 暴力とそれが子供に与える影響を理解しようとするなら、歴史を遡って考えてみればよくわかる。

 25万年ほど前、私たちの祖先である数千人のホモサピエンスがアフリカを出て、何世代もわたって各地に住み着き、やがて地球の姿を変えていった。ホモサピエンスのこの成功は、脳の柔軟性に負うところが大きい。それは「脳を持つ生物は環境によって脳が作られる」という柔軟性があるからこそ、多様な環境に適応し、世代から世代と情報を受け継ぎ、(生物学的名要請ではなく、文明が生んだ)文化の要請に応じて進化することが出来た。

 それは脊椎動物の祖先のピカイアがそうであったように、環境での生存競争においては弱者の位置であったがために能力を獲得して進化していったものかもしれない。

 このような脳がなければ、人間が地球を支配することはまずなかったと考えられる。何故なら、歴史を振り返れば常に、地球環境内での人間の生活は予想の付かないものであったはずだったからである。たとえれば、「自然災害」「極端な気候」「野生動物からの襲撃」「疫病」「他の人間からの攻撃」などに耐えながら、私たちの祖先は、地球環境というこの気まくれで残酷で情け容赦のない世界を生き抜いてきた。

 因みに、脳を作るのは経験値である。即ち、脳を作るのに必要なのは体験であり、体験することによって学び能力を獲得してきた。そして、そのうちの体験の一つが「暴力」である。私たちの祖先にとってその体験こそが暴力だった、という話である。

 この話は、「自己防衛本能から生じる攻撃性」と考えれば理解しやすいかと思う。自己防衛本能は、暴力の被害を受けたときに、そのショックで、それは生じる。この自己防衛本能は、実は、PTSDやC-PTSDなどに関連付けられて攻撃性が生じる。それらの動きはヒトだけでなく、イヌでもネコでも他の野生動物でも見られる現象である。そこを考えれば、こういったメカニズムは、哺乳類にある基本的なメカニズムと考えてよいかと思う。


 医学博士であるトーマス・バーニー博士の著書『胎児は知っている母親のこころ―子どもにトラウマを与えない妊娠期・出産・子育ての科学 (単行本) 』の中に、「暴力の起源」について、ベイラー医科大学・テキサス小児病院の〔子供のトラウマ回復プログラムのディレクターであるブルース・D・ペリーが述べた一説に対しての考察が記述されていたので、自分の科学的な知見を交えて考察してみよう。

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2008年06月12日

攻撃的な子供たち

 医学博士であるトーマス・バーニー博士の著書『胎児は知っている母親のこころ―子どもにトラウマを与えない妊娠期・出産・子育ての科学 (単行本) 』によれば、「子供は機能不全の家庭と崩壊しかけた社会環境で育つと、怒りを自分でなく他人に向ける率が著しく高くなる」という。

 勿論、これは、十分に愛情を受けられずに発達障害を引き起こしていた場合に生じるもので、同じ条件値でも、自分がそうだったように、片親だけでも十二分な愛情を受けて育っていた場合には、必然的に怒りを他人に向ける率が著しく低くなり、怒りを自分に向ける率が著しく高くなる、といった物理がある。

 ただ自分が経験したような、そういったケースが少なく、十分に愛情を受けられずに発達障害を引き起こすケースの比率が著しく高くなるため、「怒りを自分でなく他人に向ける率が著しく高くなる」という話である。


 多数の研究が共通に示すところによれば、虐待を受けている子供は、虐待を受けていない子供よりも、幼児期からの反社会性障害や行動障害の発生率が遥かに高い。

 また、子供時代に虐待または育児放棄を受けた人は、そうでない人よりも「少年犯罪」「成人犯罪」「暴力犯罪」で逮捕されている率が高い。(Drothy Otnow Lewis, "From Abuse to Violence : Psychoshysiological Consequences of Maltreatment" Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry 31 : 383-391 1992 ; "Child delinquents who later commit murder" Psychiatric News,21 June 1985)

 さらに、女性よりも男性の方が「少年犯罪」「成人犯罪」「暴力犯罪」を犯しやすいというデータもある。


 本書のCopyrightを見れば、2002年となっており、日本での初版第1発行が平成19年4月25日(2007)となっている状態での「近年」…つまり、1990年代当たりの話になるが、本書によれば、不幸なことに、10歳前後の子供による暴力犯罪が国境を越えて増加している」という。

 近年、少年による暴力的犯罪や、精神的な犯罪が爆発的に存在しているが、こういった犯罪のメカニズムは、米国では盛んに研究されてきた分野で、あらゆる分野の科学からのメスが入り、研究が進めれ続けている。

 80年代には行動科学という分野の学問が登場し、行政ではFBI内部に行動科学課の捜査員を配置し、行動科学から導き出したプロファイルで対応していた。この頃には、冷酷で残忍な加害者が、かつては被害者であったことがわかっていた。それとは別に、受刑者を被験者として研究を行う、といった、あらゆる分野の科学からのメスが入り、研究が進めれてきたが、その研究内容はディスカバリーチャンネルなどのサイエンス番組で特集番組で取り上げられてきた。実質のところ、分子科学の技術を用いて、ホルモン調整することによって行動を抑える方法で治まった人々もいれば、認知行動療法を用いて知識や技術を獲得してノウハウを得た人物でも社会に出れば対応できないことを認識していた受刑者もいた。

 過去には、こうした犯罪傾向は遺伝子に由来するという考え方が優勢だった。それは確かに間違いではなく、遺伝子の影響がないわけではない。しかし、新たな研究から、出生前と出世以後二、三年のネガティブな環境によって、病気や障害のリスクが跳ね上がるのが明らかになった、という。

 ### 環境によって生じる病気や障害のリスク ###

・うつを患っている親は、子供の脳に失望と絶望のための配線を施しやすくなる。

・育児放棄された子供、たえず愚弄された子供は、「不安」「うつ」「精神病」をはじめとする様々な障害を起こしやすくなる。

・ストレスや虐待が極端になると、脳の情緒調節スイッチが切り替わり、「反社会的行動」「爆発的な怒り」「暴力犯罪」を始動させることがある。

・虐待が極端になれば、健全そのものの脳でもダメージを受けることがある。


 しかし、同じ理由によって、遺伝的に精神病にかかりやすい子供や、出生前または出生時に心の傷を受けた子供も、愛されて大切に育てられることによって、不幸な運命から救われる可能性は十分にある。

 即ち、被虐待児であったのなら引き起こされたであろう不幸な運命から救われる…とは、おそらく、自分のようなことを指すのだと考えられた。

 つまり、自身の場合は、受けた分のC-PTSDやトラウマを持ちつつも、十二分の愛情と認知行動学習法(物事を理解できるように育てる)で育ててくれた母の存在があったお陰で『被虐待児になるとどうなるのか?』で取り上げたような、起こるであろう発達障害を引き起こさずに回避できたという話である。だから、これに挙げられた発達障害は引き起こしていない。

 しかし、C-PTSDやトラウマに関する障害はあり、父親から愛情を受けられなかったことが由来する未発達部分や発達障害はある。が、虐待されたことで発生するこれらの発達障害を回避できた(入り口止まりで回避できた)というのは非常に大きい。

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