2009年01月29日

一般身体疾患による人格変化

 DSM-IV-TRの判断基準においては、『パーソナリティ障害』には分類されない、『一般身体疾患による精神疾患』に分類される「一般身体疾患によるパーソナリティ変化」だが、米国における犯罪科学の研究においては、凶悪犯罪のうち、前頭葉の損傷などから由来された「一般身体疾患によるパーソナリティ変化」が原因であることは珍しい話ではないので、取り上げるとする。

 パーソナリティ変化を引き起こす一般身体疾患においては、代表的なものとして、てんかん、頭部外傷、脱髄疾患、感染性疾患、免疫疾患、内分泌疾患、代謝性障害、栄養障害などが挙げられる。

 人格変化とは、その人が他者と交流したり行動したりする際の根本的な点が変改したことを意味する。成人期に真の人格変化が起きたときには、臨床医は常に脳腫瘍を疑うべきとされる。しかし、厳密には、ほとんどすべての身体疾患が人格変化を引き起こしうる。このことはカプランのテキストでも指摘されている。

 疫学においては、身体疾患における人格特性の変化に関する信頼性の高い疫学資料は存在しない。特定の脳疾患における人格特性の特異な変化(例えばアルツハイマー型痴呆患者には受動的で自己中心的な行動が見られるなど)が報告されている。同様に、前頭葉に損傷を受けた患者には無関心が認められる。

 一般身体疾患による人格変化については、ここでいくつかの考察を要する。

### DSM-IV-TR の 310.1
  一般身体疾患によるパーソナリティ変化の判断基準 ###

A. その人の以前の特徴的なパーソナリティ様式からの変化を示している。持続的パーソナリティ障害(子供の場合、この障害は、正常発達からの著しい偏奇、または少なくとも1年以上継続する。その子供の通常の行動様式の著明な変化、に関するものである。

B. 病歴、身体診察、臨床検査所見からのこの障害が一般身体疾患の直接的な生理学的結果であるという証拠がある。

C.この障害は、他の精神疾患(他の)一般身体疾患による精神疾患を含む)ではうまく説明されない。

D. この障害は、せん妄の経過中にのみ起こるものではない。

E. この障害が、臨床的に、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

▼病型を特定せよ
【不安定型】主要な特徴が感情不安定性である場合。
【脱抑制型】主要な特徴が衝動制御の不良で性的無分別などに表れる場合。
【攻撃性】主要な特徴が攻撃的行動である場合。
【無欲型】主要な特徴が著しい無気力と無関心である場合。
【妄想型】主要な特徴が疑い深さと妄想様概念である場合。
【その他の型】表出表情が上記の病型のいずれでも特徴付けられない場合。
【混合型】2つ以上の特徴が臨床像において優勢である場合。
【特定不能型】

*(「DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル第4版、本文改訂版」「Diagnostic and Statistical Munual of Mental Disorders, 4th edition, Text Revision : DSM-IV-TR」より転載)

 ICD-10は脳疾患、脳腫瘍、脳機能不全による人格障害と行動の障害の診断を挙げており、それには器質性人格障害、脳炎後症候群と脳震盪後症候群が含まれる。(参照:『一般身体疾患による人格変化:ICD-10の判断基準
』)

 一般身体疾患における人格変化は、人間様式と人格特性の以前の機能からの顕著な変化によって特徴付けられる。人格変化に先行する原因となった、器質性存在するという証拠がなければならない。

 病因において、脳の構造上の損傷は、通常、人格変化の原因となる。頭部外傷は、おそらく最も一般的な原因であろうと推測される。脳の悪性新生物や血管性障害、特に側頭葉と前頭葉に生じたものもまたよくみられる原因である。しばしば人格変化に関する疾患には次のようなものもある。

### 一般身体疾患による人格変化 ###

I. 行動制御障害
攻撃性/衝動性
 情緒的攻撃性(癇癪[脳は正常])
 略奪的攻撃性(敵意/残酷さ)
 器質的攻撃性
 発作的攻撃性(脳波異常)

II. 感情調節障害
感情不安定
抑うつ症状
 非定型抑うつ、不快気分
 感情的遊離

III. 不安
慢性認知不安
慢性身心不安
重度の不安

IV. 精神病症状
急性精神病症状および精神病
慢性精神病症状および軽度の精神病様症状

 診断と臨床像においては、以前の行動様式から離れた人格変化あるいは以前の人格特性の先鋭化が著明である。感受と衝動の表現の制御障害が基本的な特徴である。

 多幸症もしくは無関心が目立っていても、感情は不安定で浅薄である。多幸症は、軽躁状態に似ているが、しかし真の高揚感はなく、患者は本当に幸福な感情は認めないだろう。

 特に前頭葉が傷害されている場合、患者の興奮と表面的なおどけには空虚で馬鹿げた調子がある。また前頭葉の損傷と関連した、いわゆる前頭葉症候群は、今ここの環境における出来事への関心の欠損で特徴付けられる。

 顕著な無関心と無感動が目立っている。少しあるいは全く誘因がなくても生じる怒りの爆発は、特にアルコール摂取後に生じ、暴力行為に至る可能性がある。

 衝動の表現は、不適切な冗談、荒っぽい作法、みだらな性欲亢進、他者への攻撃、性的非行や万引きのような結果的に違法である反社会的行為により明らかにされる。その衝動がもたらす社会的もしくは法的な結果を予測する深慮や能力は著しく減少している。側頭葉てんかん患者は、ユーモアのなさ、過書、狂言的信仰と発作間の顕著な攻撃性を特徴的に示す。

 一般身体疾患による人格変化の患者は、知覚には問題がない。しばしば認知機能の軽度な障害が同時に存在するが、しかし、知覚荒廃に至るわけではない。患者は注意力減弱の傾向があり、それが近似記憶に障害があることの説明となる可能性がある。しかし、些細な刺激で患者は、彼らが忘れてしまったと主張することを思い出す傾向がある。

 感情的不安定さや衝動制御障害を含む行動、あるいは人格に目立った変化を示した患者、何の精神疾患の病歴もない患者、そしてその人格変化が急激にもしくは比較的短期間に出現している患者ではこの診断を疑うべきである。

### 脳の特定の領域の異常と
   関連する精神病症状 ###

▼1級症状
【部位】側頭葉
【左右の偏り】優位半球
【症状】思考化声・自分の行動に注釈する声の幻聴・人々が議論する声の幻聴・行動についてのさせられ体験・感覚についてのさせられた体験・思考奪収・思考伝播・妄想知覚

▼複雑なせん妄
【部位】皮質下または大脳辺縁系

▼アントン症候群
【部位】後頭葉、視案
【左右の偏り】両側性

▼病態失認
【部位】頭頂葉
【左右の偏り】非優位半球

▼誤認症候群
【部位】頭頂葉、側頭
【左右の偏り】非優位半球
 カブグラ症候群
  【部位】葉、前頭葉
  【左右の偏り】両側性
 重複記憶錯誤
 フレゴリ症候群
 相互身心(intermetamorphosis)症候群

 鑑別診断においては、痴呆は知的機能や行動能力の全般的悪化を示し人格変化はその一部を占めるに過ぎない。人格変化は結局痴呆へと進展する認知障害を予告している場合がある。

 それらの症例では、荒廃が重要な記憶と認知の欠損を包含し始めるにつれ、診断は一般身体疾患による人格変化から痴呆へと変わる。

 統合失調、妄想性障害、気分障害や衝動制御障害のような人格変化が生じる可能性のある他の障害から特殊な症候群を鑑別するには、医師は、人格変化障害における特殊な器質的因子という最も重要な要因の存在を考慮しなくてはならない。

 経過と予後においては、一環身体疾患による人格変化の経過と予後は両方ともその原因による。もしその障害が脳の構造上の損傷の結果ならば、障害は持続する傾向にある。そのような障害は頭部外傷あるいは血管性障害による昏睡やせん妄の後に続いて生じ永続する可能性がある。

 人格変化は、脳腫瘍、多発性硬化症、ハンチントン病では痴呆に発展することがある。慢性中毒や内科疾患、パーキンソン病に用いるレボドバのような薬物療法の結果引き起こされた人格変化は、根本的原因が治療されれば回復するであろうと推測される。

 患者の基本的要求を満たし、繰り返される法的争いを避け、患者とその家族を他者の敵意、そして衝動性と病的行動がもたらす貧困から守るために、保護的看護、少なくとも周到な管理が必要となる場合もある。

 治療においては、人格変化障害の管理は、基礎となる器質疾患の治療が可能な状態であれば、その疾患の治療である。

 特異的な症状に対する精神薬理学的治療として、症例によってはうつ病に用いられる薬物が必要であろうし、重篤な認知障害あるいは行動制御の減弱のある患者はしこ途上の困難を避けるため、あるいは社会的機能の障害を防ぐためカウンセリングを必要とする。


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